テレビを中心にPCR検査やれやれコール、相変わらずよく耳にします。
確かに検査数を増やせば増やすほど感染者数や存在比、地域や年齢層などの偏在状況を把握できてより精度の高い感染抑制の方策を打ち出すことも可能になることでしょう。
しかしながら、医療体制の崩壊やPCR検査数を増やすことによって生じるリソースの枯渇などへの懸念から、慎重論もまた多くあります。
加えてCPR検査の的中率が最高で70%しかなく、平均で50%は上回るものの現段階では、確実に信用できる検査結果を出すものでもないようです。
そんな折、楽天とその関連会社が新型コロナウイルスの検査キットを発売開始しました。
楽天とジェネシスヘルスケアによるPCR検査キットの販売開始
楽天と、楽天が出資する遺伝子解析サービスのジェネシスヘルスケア株式会社(東京都)が製造・販売する、COVID-19(新型コロナウイルス)のPCR検査キットは、概要をまとめると下記のようになります。
【新型コロナウィルスPCR検査キット COVID-19 PCRの基本概要】
b) 東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城の関東地域5都県の法人が販売対象 *順次地域拡大予定
c) 税込み定価14,900円で、100キットからの申込み受付 *購入数に応じて特別価格で提供
d) 医療法人社団創世会(東京都)の協力を得て開発
e) 利用対象者は企業に属する20歳以上の人
下記のURLリンクにある内容をよく読んでみると、あくまで法人対象のサービスということが分かります。
ニュースリリースの中にありますが、この検査キットが・・
症状が出ていないものの、不安を感じられる方を対象としています
というところもポイントかと思います。
これをポイントとして、この新型コロナウィルスPCR検査キット COVID-19 PCRのキャラクター的概要を以下に記します。
g) 利用者は検査試料の中にRNA配列*含有の可否判定を受けられる
h) すでに症状が出ている人は対象としていない
i) 試料改修から最短で3営業日で結果通知
加えて、楽天グループ内で試験的に導入しており、希望者に対して提供することが決定しているということです。
* RNA配列=この場合新型コロナウイルスに特徴的なゲノム配列を指す
楽天の新型コロナウィルスPCR検査キットはスクリーニングツール
上記URLのニュースリリースが4月20日時点から書き換えられていないことを前提としますが、このキットは何も証明しないし保証もしないという内容のステートメントと感じます。
一言でいえば、このこの新型コロナウィルスPCR検査キット COVID-19 PCRは、中規模以上の企業のための従業員感染スクリーニングツールというところでしょうか。
従業員が感染しているか否かは、経営者にとって企業の死活を左右する問題ともいえます。
これだけの規模の投資を行える企業であれば、小さなほころびから大きな穴が開きかねないわけで、全体に及ぼす影響を考えればリスク対応のコストとしてはそう高価なものではないのでしょう。
販売する楽天からみれば、売れるようなら販売対象拡大&増産。
観測気球的な商品ともいえるように思います。
だけどまあ、以前から私をご存知の方であればお分かりですが、その歴史に違わない楽天らしい商品だと考えています。
製造・検査を行うジェネシスヘルスケアとは
この新型コロナウィルスPCR検査キット COVID-19 PCRの製造や検査を行うジェネシスヘルスケア株式会社は、2017年8月から楽天の出資を受けており、民間向け遺伝子検査キットや医療向け遺伝子診断検査などといったサービスを提供しています。
【ジェネシスヘルスケア株式会社の会社概要】
k) 資本金: 33億5,000万円
l) 許可業: 第三種医療機器製造販売業
m) 本社所在地: 東京都渋谷区恵比寿
n) 加盟団体: 特定非営利活動法人 個人遺伝子情報取扱協議会
一般財団法人 バイオインダストリー協会
楽天のCPR検査キット販売には疑問や批判も
◇診断や医療行為を行うものではない
◇厚生省が相談&受信の目安として挙げる症状がある人は使用不可
◇保健所でのPCR検査陽性判定がなければ通常ルートの治療不可
◇偽陰性や偽陰性が一定確率で出るので、陰性判定だとしても確実なわけでない
「医療現場に混乱をもたらしかねない」という批判も
まあただ、日本医師会やSNSで批判されているように、偽陰性の人によるウイルス拡散や陽性判定の人のパニックや医療現場への負荷増加やもたらしかねない混乱など、ちょっと想像するだけでまずいんじゃないかという仕様の商品です。
一番致命的なのは、一定の性能が(されているかもしれないけど)担保されていない検査で判定を出すだけ出して、その後の処置は関係ないのであとはよろしく・・と但し書きにも書いているところです。
そこへもってきて、社会不安の解決商品であるかのようなことを装いつつ、その不安を利用している(ように見えてしまいかねない)商品構成であることです。
悪い言い方をしてしまうと、時代も背景も違えどキリスト教宗教改革の契機となった免罪符にも似ているように思えるんですよね。
「鼻咽頭拭い液」というサンプル採取方法が一般の人には正しく行うのが困難であると、医療関係者からの指摘もあると聞きます。
サンプルの正しい採取ができなければ、いや正しくやれる人もいるでしょうから正しい採取を行う確率が低ければ、検査結果の制度も自ずから低くなるのは明白なことです。
別のところの記事でもこういった疑問に対する楽天側の回答も散見されますが、ちょっと苦しい筋の説明に聞こえてしまいます。
ニッチというのかカバーしきれないニーズをすくい上げたという点ではいい着眼点のサービスだと思うのですが、こういう情勢においてのキャラクターづけとしては、あまりいい印象を抱くことができないと感じています。
ニーズはあると思います。
せっかく検査のノウハウがあるので、まず医療現場とのコンセンサスや手法の確立を経てからでも、遅くなかったのではないでしょうか。
試みは否定しようとは思いませんしむしろいいと思うのですが、現状では企業の「恐れ」に着眼しただけのビジネスになってしまいかねないので、残念な限りです。
(了)