いつでもどこでも外国語翻訳が可能な便利ガジェット、ポケトーク(Pocketalk)を仕事で使っていますか?
ここ数年で企業やお店で働く外国籍の方がぐっと増えているので、導入していたりこれから導入しようと考えている経営者の方も多いことと思います。
ポケトークは、それまでソフトウエアの販売業者というイメージがあったソースネクスト社から発売されて、人気を博しています。
昨年後半にはカメラを搭載した高機能版のポケトークSが発売されたり、人気タレントを起用したCMの効果もあって認知度も高い製品です。
今回の記事では、ポケトークを実際に職場に導入した経験と、ポケトークのいいところと悪いところ、加えて有効活用するために気をつけるべきことを記していこうと思います。
外国人社員とのコミュニケーションのためポケトークWを導入
私自身、ポケトークWが発売されたときから興味を持っていたのですが、海外出張に行くわけでもなし外国人と仕事をする機会があるわけでもなし。
旧東ヨーロッパ人のプログラマと英語でやり取りしていたこともあったのですが、言語の上達が早くて日本語によるコミュニケーションで何の問題もなくなり、それ以来は他言語に接する機会が消滅。
いまどきは翻訳アプリもあることだし、ポケトークのようなものは自分には縁がないものなのかなーと思っていました。
ところが昨年の12月、職場の別部署に外国人が入社してきました。
皆さんの職場でも、外国人の入社も珍しくなくなってきているのではないでしょうか。
外部のスタッフもいる部署でコミュニケーションで若干の問題が生じたこともあり、コミュニケーションを補う目的で購入することになりました。
導入に関する調査(というほどでもないものの^^;)と、実際の購入を、私が仰せつかりました。
日本語教育を一年間受けていても意思疎通を完全に行えるわけではない
入社してきたのはベトナム出身の20代と30代の若者三人。
三人とも約一年間、現地ベトナムの日本語学校で日本語教育を受けてきたということでした。
だったら翻訳機なんて不要では?
とも考えられるのですが、初歩的な仕事とはいえ教育・伝達するには日本語がまだ不十分なレベルということが判明しました。
自分でも分かりますが、一年やそこらでマスターできるほど外国語は甘くない。
一年の間に一つでも外国語を習得できるのは、語学の才能があるか持つ時間のほとんどを語学学習に捧げられる人くらいではないでしょうか。
それに何より、受け入れる我々企業側のベトナム語に対する親和性の低さ。
我々にはベトナム語の文字にも発音にも、馴染みがまったくありません。
足りているようで足りない日本語の習熟度に対し、受け入れる側も補おうという目的ですね。
事前の情報ではまずまず日本語ができるということでしたが、そのとおりの人もいればその人よりもずっと下の習熟レベルの人もいて、そこに対しても最低限のコミュニケーションの質は確保したい。
彼らに任せる仕事が当初は、比較的単純な作業ということもあり心配していなかったのですが、予想よりも意思疎通(=コミュニケーション)がうまくいかないことが分かったのでした。
翻訳アプリより即時性に勝るシンプルなポケトークW
簡単な外国語のやり取りなら「翻訳アプリで十分でしょ」
という社内の声は多々ありました。
ただ現場での使い勝手を考えると、ほぼワンタッチで使うことができる専用端末の方が手早く使えて利便性が高いのは、間違いありません。
電源・画面がスリープ状態からの使用して翻訳表示するまでのプロセスを単純比較すると、下記のようになります。
プロファイル \ 翻訳ツール | スマホの翻訳アプリ | ポケトークW |
---|---|---|
電源スイッチオン | ○ | ○ |
パスワードほか認証解除 | ○ | ー |
アプリ立ち上げ | ○ | ー |
翻訳元情報入力 | ○ | ○ |
翻訳結果表示 | ○ | ○ |
違うのは「A:パスワードほか認証解除」と「B:アプリの立ち上げ」の2工程。
たった2工程で、そんなに変わらないんじゃないかという見方もあります。
しかしながら、このA:とB:のそれぞれには(とくに急いでいる際の)手違いや認証エラー、画面上のアプリを探したり画面を戻ったりするロスが生じる可能性があります。
上にあげた2工程のうち、とくにアプリ立ち上げのロスというのは、結構馬鹿にならないものです。
翻訳さえすればいいのですから、シンプルに翻訳だけのためのポケトークWの方が即時性に優れ、使い勝手がよいのは間違いありません。
色分け購入したポケトークW4台のセットアップは小一時間
肝心の性能については、考えている使い方に対して十分足りていたので、購入決定までの時間は短かったです。
台数は三人がいる職場に一台ずつ、それから総務の場所に一台の合計4台を購入。
どれがどこのものかを識別するために、レッド/ホワイト/ブラック/ピンクゴールドの4色に分けました。
セットアップについては時間がかかることを覚悟していましたが、4台分を小一時間で完了できました。
翻訳のキモとなるインターネット接続設定もないに等しいプロセスだったので、すぐに使い始めることができました。
後述しますが設定可能なWi-Fiの接続は、提供された回線が通じない場合のみにして、設定する必要はないと思います。
ポケトークWは有効活用するには、普段の言葉を標準語化すること
さて、ポケトークWの実際の使用が始まりました。
職場での使用評価は上々。
1カ月ほど経った頃、使っている社員たちから得られた良し悪しを問わないインプレッションを列挙すると、下記のようになります(要約)。
◎ 翻訳の精度が高い
◎ 翻訳がストレスを感じることなく速い
○ 簡単に使えるのでいい
△ ボタン押しっぱなしが続けられないことがある
△ タッチ操作で違うところを押してしまうことがある
△ 長いフレーズは正確に翻訳してくれない
▼ 意図通りに翻訳してくれない
精度が高いのは、音声入力の性能向上と翻訳エンジンの優秀さに負うところが、大きいのでしょう。
加えて私も感じたことですが、翻訳の速度が速い。
アプリで慣れている人からすれば普通なのですが、機械端末でやっている印象からすると速く感じられるのも自然かと思います。
おおむね肯定的なインプレッションが出てきたのですが、ネガティブなもので目立つのが一番最後のもの。
「意図通りに翻訳してくれない」というのか、これに類する意見が複数の人から出てきました。
私が設定するときには、長めのフレーズを音声入力してもこういうことはなかったので、正直なところ「?」でした。
ついでに言えば、ランダムな30言語に対し「インタビューに応じてください」というフレーズを試しに翻訳*してみたら、(何故か)マルタ語以外は即時出力だったので、ちょっと面妖な現象でした。
*完全に趣味でやってます^^;
意図通りに翻訳してくれない理由を考えてみる
はて、どうしてというか何が「意図通りに翻訳してくれない」のだろうか・・?
ちょっと考えてみたのですが、フレーズが長いのが原因かなと思って長いフレーズを試しに日→英ポケトークしてみたら、まあ確かにちょっと意図が違う感じに翻訳されてしまっていることもあるとは、思いました。
しかしながら、その旨を教えてくれた人に電話口で訊いてみたところ、そんなに長くないという返答。
気になって、再びちょっと考えました。
と、考えているタイミングで、ちょうど30代のベトナム人社員がいるところへ行く用事ができたので、一緒に仕事をしている人とのやり取りを見せてもらいました。
ポケトークを使う場面の観察ですね。
20分くらいだったでしょうか、観察していて「意図通りに翻訳してくれない」理由が分かりました。
分かってみれば単純なことです。
入力する人の日本語が「正しい日本語ではなかった」のです。
正しい日本語=標準語の入力をすれば正しい翻訳結果に
「正しい日本語」というと大層に聞こえますが、要するに標準語です。
音声入力するときに、標準語で行っていないことが分かったのです。
よく考えてみれば当然のことで、翻訳エンジンは標準語でないと正確な翻訳をしてくれるはずがありません。
仕事上の指示ややり取りを聞いていたら、すぐに何故正確な翻訳がされないかに気づかされました。
そもそも正確な翻訳の元になる形で入力されていなかったからです。
音声で入力されていたのは人間しか分からない言葉だった
現場でどれくらい標準語で入力していなかったか、ちょっと実際の例を紹介します。
【実際に使われていた中で伝わらなかった音声入力フレーズの例】
A)「これ、そっちに持っていって」
B)「紙に書いて山田さんに出すんだ」
C)「その箱、両手で持ってドアの左側にある箱の上に積んで」
実際にそのときに耳にした仕事場でのやり取りをほぼ原文のまま、書くと上記のようになります。
見ていたら、一番日本語ができる30代のベトナム人従業員だったので戸惑いながらも意図を汲み取ろうとしつつも、ポケトークから出てくる言葉に首を傾げつつ上司の顔色を伺って、作業をしようとしていました。
A)であれば字面だけではまったく分かりませんが、指示する側の身振りや手振りを伴うので、指示を受ける側もなんとなくながらも理解して指示通りにできていました。
B)になると字面で見ても、伝え方のまずさが分かることと思います。
何を紙に書いて、どこへ出す(持っていく)のか分からないのです。
正しくは「あなたの名前をこの紙(の欄に)書いて、山田さんのところへ持っていってください」としなければいけないのでしょう。
※実際、身振りを交えて上のように翻訳をかけたら通じました
長いフレーズは2つか3つに分解してあげる
続いて3つ目のC)。
「標準語」あるいは日本語の正規表現(プログラミング用語でなく)の観点からすれば、比較的好ましい表現だと思います。
しかし、ポケトークに限らず機械翻訳の弱点の一つである「複合的なフレーズ」でもあります。
ポケトークにこちらの意図通りに、翻訳してもらうには「両手で持ってドアの左側にある箱の上に置いて」という複合的フレーズを、分解する必要があります。
分解してみると、以下のようになるでしょうか。
C-1)その箱を両手で持ってください。
C-2)それから(その箱を)ドアの左側にある箱の上に積んでください(あるいは”置いてください”)。
頭の中で分割する手間 < 意図と違えて伝わって起こる面倒の手間
上記のように言いかけたフレーズを長くならないように分割しつつ、正規表現といいますか標準語フレーズに置き換えればポケトークの翻訳の精度が格段に上がります。
慣れるまでは面倒に感じられるでしょうが、あらかじめ考える手間と、意図と違えて伝わってしまって後々になり起こる面倒を処理する手間と比べたら、どちらがいいかは明白です。
この分割と標準語的表現をするのが大変だったようですが、意識するようになってポケトークを介した上でも初期段階の意思疎通は、まずまずうまくやれたように感じています。
3月を過ぎた現在となっては、既存の仕事をすすめる上ではポケトークに頼る機会はかなり少なくなり、どちらかというと使われる場面は個人的な話をするときの方で使われているようです。
ポケトークが意思疎通の問題すべてを解決できるわけではない
と、ここまで職場にポケトークを導入してうまく行かなかったところを、工夫してうまく収めた話を書いてきました。
ただ、ポケトークが素晴らしいツールであるとはいえ、意思疎通の問題すべてが解決できるわけではないことをご承知おきください。
短く標準語的かつ一般的なフレーズでなければ、こちらの意図に沿った精度の高い翻訳結果を得ることはできません。
「翻訳されやすい」日本語を自分で用意してあげる必要はあります。
世間でも変に喧伝している「AI」などという修飾語がついているので、多少言葉に文法的な揺れがあってもなんとかしてくれるんじゃないか、という錯覚まで生みかねません。
貶める意図はないですが完全な翻訳ツールではありませんし、使う側にもちょっとした工夫が必要です。
などという点を踏まえて使えば、十分に有効活用できるツールになるはずです。
さて、ここになってようやく結論をご提示できます。
ポケトークを有効活用するために気をつけることは・・
こうすることで、ポケトークの翻訳精度は格段に上がります。
ポケトークの使い勝手を5つ星満点で評価
最後になりましたが、同僚の方々から伝え聞いたインプレッションと導入設定から行った私が評価をまとめると、下記のようになります。
星5つを満点とした場合、評価は4.2になりました。
おおむね高評価なのですが、翻訳精度については3.5に近い4くらいでしょうか。
体感的にですが、ベトナム語で短いフレーズでも完全に伝わっているか疑問なときもありましたし、何度か英語で検証してみても微妙に違っているんじゃないかというケースもありました。
パソコンでGoogle翻訳のように翻訳結果を逆翻訳して内容を確認しづらいのでなんともいえませんが、分解して簡明なフレーズにしても伝えきれない事象も当然あります。
契約や賃金、治療などにより重要な事象に関する伝達・指示については翻訳者を介して行う方が無難であるのは、言うまでもありません。
評価軸 | 評価(★5つ満点) | コメント |
---|---|---|
初期設定のしやすさ | ★★★★★ | すぐに使えるようになる |
操作性 | ★★★★ | 直感的で簡明 |
入力音声の認識性能 | ★★★★ | ノイズキャンセリング性能高し |
翻訳精度 | ★★★★(*) | 複雑・長大文にはやや難あり |
翻訳速度 | ★★★★ | 約0.6秒という謳い文句通り |
これ以外にいえるのは、翻訳結果を出力するスピーカーの性能。
音声が大きくて、外でもちゃんと聞き取れてコミュニケーションをとれるのは、好ましいことです。
スピーカは大容量でなく音声自体のサンプリングレートも高くなさそうですが、聞き取って伝わるレベルにあるので、性能的には必要にして十分といえます。
追加情報:接続不可のトラブル発生 → Wi-Fi設定をしなくなったら解消
Wi-Fi設定は不要と先に書きましたが、これには理由があります。
Wi-Fi設定をした2台が2台とも、外出時のネット接続ができなくなってしまったからです。
(了)